2018年8月5日の日経新聞 電子版に「働くシニアに給付金 下がった給与の一部をカバー 定年後の転職や技能習得にも」という、興味深い記事が掲載されていましたので、その概要をお伝えしたいと思います。尚、原文のURLは以下の通りですので、日経新聞のWEBサイトでお読みください。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33766820T00C18A8PPE000/
「給付金」といったたぐいのものは、「申請して給付される」もの(正にお役所仕事)ですから、給付金の存在を知っているか知らないかが大きなポイントになります。あなたも、このような給付金の存在を知り、働きながら収入アップを目指しましょう。
この記事で書かれているポイントは次の通りです。
- シニア世代の経済的不安
- 雇用保険制度の全体像
- 教育訓練給付金
- 年金の受給方法
シニア世代の経済的不安
少子高齢化の影響で労働人口が減り、企業は採用難の時代。60歳以上の高齢者の採用も活発で、この年代ですらも人手不足と言われています。このような状況を反映するかのように、内閣府の高齢社会白書によると次のような実態が明らかになっています。
- 60代前半の就業率:66.2%(10年前より10.7%アップ)
- 60代後半の就業率:44.4%(10年前より8.5%アップ)
- 70代前半の就業率:27.2%(10年間より5.5%アップ)
- 75歳以上の就業率:10%
高齢者が働く理由は、「生き甲斐」、「後継者がいない」、「健康維持の為」、「家計を補うため」と様々ですが、家計を補うためという理由が全体の35%で、最も多い理由であり、老後の生活への不安が就労を促しているということがわかります。
雇用保険制度の全体像
それでは、シニア世代が働いて得ている収入はどの程度のものかというと、就労による収入は平均259万円で、家計の大きな支えになっていることがわかります。そうは言っても60歳定年前の収入よりは大きく減ってしまうのは現実であり、これを何とか少しでも収入アップできないかと紹介されているのが、今回記事になっている「雇用保険制度にある各種給付金」なのです。
雇用保険は「求職者給付、就業促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付」の4種類に分かれ、詳細は以下の通りです。(一般的に失業保険と呼ばれる制度は、雇用保険の求職者給付に分類される基本手当のことです)
- 求職者給付:基本手当(失業保険)、技能習得手当、寄宿手当、傷病手当、高年齢求職者給付金、特例一時金(短期雇用特例被保険者)、日雇労働者給付金
- 就業促進給付:就業促進手当、移転費、広域就職活動費
- 教育訓練給付:教育訓練給付金
- 雇用継続給付:高年齢雇用継続給付金、育児休業給付金、介護休業給付金
基本手当(失業保険)
まず基本は失業保険ですが、これは定年退職をしたあとでも受給できるものです。「定年退職=リタイヤ」と考えてしまうと少し違和感があるかと思いますが、引き続き働きたいという意思があれば受給できるものなのです。
失業保険とは、「今まで働いていた人たちが自ら離職したり、解雇や倒産、定年などで職を失ったとき、新たな仕事が見つかるまでの間に支払われる給付金」で、以下の条件を満たすことで、定年退職をした後でも雇用保険を受け取ることができます。
- 定年退職前に雇用保険に最低6ヶ月以上加入している
- 65歳未満である
- 健康上問題なくすぐに働ける能力がある
- すぐに働く意志がある
- 求職活動をしているが再就職できない状態である
これらの条件を全て満たしている場合は、退職前の会社から渡される離職票や雇用保険被保険者証などをハローワークへ提出し、失業給付の申請を行います。この申請が承認されたら、その後は、毎月指定された日にハローワークへ行き、求職活動の状況を報告することで失業認定となり、雇用保険が支給される運びとなります。
なお、この求職者向けの給付金は、年齢によって次のように分かれています。
- 65歳未満(基本手当):離職前賃金の45%~80%
- 65歳以上(高年齢求職者給付金):離職前賃金の50%~80%
ですから、60歳を過ぎて、すぐに次の会社へ就業しない場合などには、まずは失業保険を申請し、受給するようにしましょう。
高年齢雇用継続給付金
続いてご紹介するのは「高年齢雇用継続給付金」というもので、これは60歳の定年を過ぎ働く場合(同一企業での再雇用や転職など)に給付されるものです。給付の条件としては、60歳以降の賃金が、60歳到達時点の賃金の75%以下となってしまった場合に、賃金の一定割合分(最高15%)を給付するという制度で(以下の例)、最長65歳まで給付されます。
<給付事例>
60歳到達時点の賃金が40万円で、これが再雇用や転職で24万円になってしまった場合には、24万円×0.15=3万6千円が給付される
さらに、64歳になって賃金が16万円に下がってしまった場合には、16万円×0.15=2万4千円が給付される
この給付金を受け取ると、後で述べる「在職老齢年金」が減らされることがありますが、それでも「年金の削減分を補えることが多い」と言えます。従って、通常は高年齢雇用継続給付金を受け取ったほうが有利だと考えられます。
先の「基本手当(失業保険)」の項でもお話ししましたが、就労の意思があり職を探している期間は失業給付の対象となり、60~64歳の人は離職前賃金の45~80%分を受け取れるますので、「就労賃金+高年齢雇用継続給付金」と「失業給付(離職前賃金の45~80%)を比較して、有利な条件を選択すべきかと思います。
なお、失業級の給付比率は離職前賃金が少ないほど高くなります。
高年齢求職者給付金
さらに、65歳以上で仕事を探す人には、高年齢求職者給付金という制度があります。65歳の誕生日になった段階で、何らかの理由により離職し、引き続き就労の意思がある場合には、離職前賃金の50%~80%を一括支給で受け取ることができます。
さらに、65歳以上でも雇用保険に加入できるようになったため、雇用保険加入後6カ月以上たつと改めて給付金を受けられるようになりました。(6ヵ月~1年加入で30日分、1年以上の加入で50日分の給付が受けられます)
教育訓練給付金
就業を目指してスキルアップを図る場合には、教育訓練給付金というのが受給可能です。これは、技能習得や資格取得専門学校などに通うなどの費用を助成してくれる制度で、以下の二つの仕組みがあります。
- 語学やパソコンなど幅広い分野が対象:かかったは費用の20%(上限10万円)相当を受け取れる(17年度は受給者全体の4%にあたる約3600人が60歳以上)
- 専門的な資格の取得が対象:社会福祉士や看護師、保育士などが対象で費用の50%(上限年40万円)を受け取れる(17年から65歳以上も助成対象)
年金の受給方法
このように、少子高齢化の労働人口対策、長寿対策として様々な制度があります。これらの制度を賢く使っていきたいものです。国は、苦しい年金財政の対策として、これらのシニア向け制度を準備し、できるだけ健康に長期間働くことで、年金受給時期を遅らたい考えかと思いますが、このような考え方は、公的年金の仕組みにも表れています。
まるで国の意向を反映するかのように、多くのFPが年金受給時期に関しては、「繰り下げ受給」を進めています。受け取り始める年齢を遅らせる代わりに、以下の事例のように年金額を増やせるという仕組みがあるのです。
<例:モデル生体の夫の年金>
- 65歳から受給する場合:月額16万円
- 66歳から受給する場合:月額16万円×1.084(8.4%アップ)
- 67歳から受給する場合:月額16万円×1.168(16.8%アップ)
- 68歳から受給する場合:月額16万円×1.252(25.2%アップ)
- 69歳から受給する場合:月額16万円×1.336(33.6%アップ)
- 70歳から受給する場合:月額16万円×1.420(42%アップ)
ニンジンをぶら下げられているようで素直には喜べませんが、70歳まで元気に働きそこから年金を受給すると、月額42%アップとは驚きですよね。シニアでも元気に働いて、貯蓄に余裕がある間は年金をあえてもらわないという選択肢もありそうです。
まとめ
以上、シニアの転職で、特に60歳からの再雇用、転職時に知っておきたい「雇用保険制度」や年金受給についてお伝えしてきました。
健康で働く意思がある場合には、「基本手当(失業保険)」、「高年齢求職者給付」、「高年齢雇用継続給付」、「教育訓練給付」など、働くための様々な給付金があることがわかりました。このように、少子高齢化の労働人口対策、長寿対策として様々な制度があります。
あなたもこれらの制度を賢く使い、充実したシニアライフを送りましょう。
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