「みんな」の経営学 ー 「小倉昌男の経営学」の真髄

経営学に関する書籍はというと、それはそれは多くの書籍があります。ジャンルも様々で大学の研究者の論文を中心としたアカデミックなものや経営・組織コンサルタントが実業として展開する組織開発・人材開発に焦点をあてたもの、そして著名な経営者の実践を記録したもの。

さて、著名な経営者の実録書も数多く出版されているが、中でも不朽のロングセラーとなっているのが「小倉昌男 経営学」です。

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本書は、ヤマト運輸の元社長である小倉が書き下ろした、経営のケーススタディーであるが、私たちが普段使っている「クロネコヤマトの宅急便」を発想し、一大市場を創出したという点で、ビジネスマンにとって読み応えがあり、斬新な内容だと言える。

本書で注目すべき点は、父親より跡を継いだ「ヤマト運輸」を、経営者でありながら自分の力でマーケティングを実践し、社内外の様々な壁(反対、制度)や危機を乗り越えて、個人向けの宅急便という新しいマーケットを生み出し、事業構造を転換させたという点です。

創業以来ヤマト運輸は、三越等の百貨店を中心とした法人向けの荷物輸送を中心に事業を拡大してきたのですが、大手顧客である法人の言いなりにならざるを得ない部分が多く、利益を上げられないばかりか、社員の仕事に対する満足度も下がっていたといいます。

それでも、ある程度のビジネス規模があるのであれば、「お客様は神様」、「企業が存続できてこそ給料が払える」的な経営感覚が主流となり、経営者は社員に我慢を強い、高建奮闘をすべくハッパをかけて会社を経営してきました。今でも、そういう企業は存在します。

「岡田茂」氏が三越の独裁経営者であったことは記憶にありますが、そんな岡田氏が「三越事件」(特別背任事件)を引き起こします。 岡田氏は社長に就任するや自分に批判的な人物を次々と遠ざけ、早々と独裁体制を敷きます。不明瞭な経理処理によって会社を私物化し、会社に大きな損失を与えます。

三越が顧客であったヤマト運輸も巻き込まれます。高価な家具や時計、別荘地まで買わされたり海外旅行への参加を強制されたりと。結果的に三越との事業は赤字となり、まさに岡田氏の独裁の被害を受けたのです。

そこで小倉昌男は立ち上がります。いくら大得意先の三越といえども、自社が赤字に追い込まれることは看過できない、そんな経営者としての使命から一大決心をします。収支というのはときにより変化するため、一時的な収支悪化だけで長く続いた顧客とのの取引を止めることは考えられませんが、「経営者である小倉昌男」として、同じく独裁経営者の岡田社長を許せなかったのではないでしょうか。

1968年、ヤマト運輸役員会に計り、大口顧客である三越似対して配送契約の解除を申し入れたのです。
まさに大英断。そして子男決断は、何としても宅急便事業を成功させなければならないという「背水の陣」となったのです。

その後クロネコヤマトは、個人市場である「宅急便」という一大市場を創出し、会社の成長を成し遂げるわけですが、大切なのは、経営者である小倉昌男自身が、自社の事業に真摯に向かい、命がけで社員を守ったということです。

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この事実が、「小倉昌男の経営学」と言われ、不朽のロングセラーになっている所以なのです。研究者が事例研究をしたのではなく、自身が経営する会社において、経営者の実業として生きるか死ぬかの仕事をした結果が、「経営学」として残され、読みつがれているのです。

小倉昌男は、この本の最後で「経営リーダーの10の条件」を挙げています。

それは、

1.論理的思考:軽家は論理の積み重ねである
2.時代の風を読む:企業はその次代の次代の社会の変化に強く影響される
3.戦略的思考:経営には戦略と戦術がある。戦術は日常の営業活動において競争に勝つための方策であり、戦略は経営目標を実現するための長期的な策略である
4.攻めの経営:激しい競争に晒されることを覚悟し、攻める姿勢を持たなければならない
5.行政の頼らぬ自立の精神:役人とは国民の利便を増進するために仕事をするものであり、結果に責任を持たない役人の言うことを、経営者は聞いてはならない
6.政治家に頼るな、自助努力あるのみ:経営者が信頼されるということは会社が信頼されるということであり、政治家や役人と繋がっているからではない
7.マスコミとの良い関係:宣伝と広報は違う。経営者は、優れた広報マインドを持つことが要求され、これによってマスコミとも良好な関係を構築できる
8.明るい性格:成功している経営者は「ねあか」のひとが多い。経営者は、常にプラス思考でなければならない。名経営者は、「ねあか」かつ「謙虚」という資質を持っている
9.身銭を切ること:経営者は、もらうべきものはもらい、部下に飲ませるときにはポケットマネーで払うようにしなければ、社員から尊敬される経営者にはならない
10.高い倫理観:企業が永続するためには、人間に人格があるように企業には優れた「社格」がなければならない。人格者に人徳があるように、会社にも「社徳」が必要である

というものである。

10の全てが実業の経営の中で見いだされた考え方や言葉であり、サラリーマン現場経験の長い私たちには心に沁みる内容です。企業を経営するための「論理」、「戦略」などのアカデミックな経営論から「攻め」、「政治・マスコミ」等のその時々の社会情勢との関わり方、「性格」、「倫理観」といった経営者としての姿勢まで、すべての経営者要素が詰まった内容なのではないでしょうか。

そして小倉昌男は、最後に次のように述べています。

企業の目的は、永続することだと思う。永続するためには、利益が出ていなければならない。つまり利益は、手段であり、また企業活動の結果である。
企業は社会的な存在である。土地や機械といった資本を有効に稼働させ、財やサービスを地域社会に提供して、国民の生活を保持する役目を担っている。さらに雇用の機会を地域に与えることによって、住民の生活を支えている。
企業は永続的に活動を続けることが必要であり、そのために利益を必要としているのである

この文章、いかがでしょうか。
私は心が震え、真の企業家精神、企業の存在理由を思い知らされた気がします。
そして、そんな経営者になるために、「みんなの経営学」を広く展開したい考えるのです。

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